なぜ旅館は「1泊2食付き」を続けるのか 観光地の夜が静まり返る本当の理由

MSN - 03:01
こっちが「喜んでくれるだろ」とやっていることが、実は相手はそれほど喜んでおらず、むしろ「押し付けがましい」と煙たがられてしまう――。 職場などの人間関係などでよく聞く話だが、これは「おもてなし」にも当てはまる。日本の温泉宿や旅館の売りの一つである「1泊2食付き」が利用者から思いのほか不評で、「朝食のみ」や「素泊まり」へと転換する事業者が増えているというのだ。...

 こっちが「喜んでくれるだろ」とやっていることが、実は相手はそれほど喜んでおらず、むしろ「押し付けがましい」と煙たがられてしまう――。

 職場などの人間関係などでよく聞く話だが、これは「おもてなし」にも当てはまる。日本の温泉宿や旅館の売りの一つである「1泊2食付き」が利用者から思いのほか不評で、「朝食のみ」や「素泊まり」へと転換する事業者が増えているというのだ。

 『東洋経済オンライン』の記事(2025年4月20日)によると、京都などの観光地において「1泊2食付き宿」に宿泊する外国人観光客は、提供された夕飯にちょこっとだけ口を付けて食べ残し、「明日からは出さないでくれ」とキャンセルするパターンが多いという。彼らが考える「日本食」というのは焼肉、寿司、ラーメンなどであり、「1泊2食付き宿」が提供する懐石料理的なものではないからだ。

 そう聞くと「日本の旅館文化へのリスペクトもなく、ワガママ三昧の外国人観光客など今すぐ日本から出ていけ!」と外国人観光客へ憎悪を募らせる方も多いと思うが、実は同様の声は日本人観光客からも挙がっている。

 『日本経済新聞』の記事「草津や城崎温泉、素泊まり拡大 旅先の夕食は街ごはん」(2025年3月1日)によると、草津温泉や城崎温泉などの有名観光地で、「夕食に好きなものを食べたい」「食事時間の制約を受けたくない」という客のニーズが高まっており、宿側も人手不足の解決策として「素泊まり型施設」が相次いで開業しているという。

 例えば、群馬県の伊香保温泉に2024年11月にオープンした「楓と樹」(ふうとき)は、温泉街を一望できるテラスやルーフトップバーなどを備えているが、食事は朝食しか付いていない。公式Webサイトでは以下のように記載している。

「画一的な『旅館メシ』からの脱却と、みんなでわいわい楽しめる食の空間創りを目指して私たち楓と樹は、メインダイニングを『焼肉レストラン』としてクリエイトいたしました」(楓と樹の公式Webサイト)

 つまり、宿泊客の中で「焼肉」を食べたい人は館内のレストランで食べるが、それ以外の食事を求める人は温泉街に繰り出して、地元レストランで好きなものを食べてください、というスタイルが増えているのだ。

●日本にとって明るい兆しといえるワケ

 さて、このようなビジネストレンドを聞いて、皆さんはどう感じるだろうか。

 「日本の旅館の魅力といえば、やはりそれぞれの宿が趣向を凝らした料理なので、それが減っていくのは寂しい」と否定的に見る人も多いだろう。あるいは、「このままいけば日本の昔ながらの旅館のいいところが消えてしまうのではないか」と日本文化の衰退を危惧する人もいるかもしれない。

 いろいろな意見があるだろうが、この「泊食分離」と呼ばれる取り組みは、日本の観光業界のプラスになると考えている。実際、人手不足や売り上げ低迷に苦しむ宿泊施設や、しなびた観光地を「再生」させるための手段として一部で注目を集めている。

・泊食分離、人手不足に解 「夕食は外」広がる(日本経済新聞 2024年10月19日)

・温泉旅館が25年間でほぼ半減「泊食分離」絶品料理でニッポンの危機を救う!(テレビ東京『ガイアの夜明け』 2024年1月12日)

 断っておくが、「1泊2食付き宿」が悪いとか時代遅れだと言っているわけではない。観光ビジネスというのは「多様性」が大事だ。国内外からさまざまな背景・趣向を持つ人々がやって来るのだから、「1泊2食付」以外にも「朝食のみ」や「素泊まり」という宿がもっとあっていいのだ。

 そこに加えて、「泊食分離」が普及すれば、日本の観光ビジネスを衰退させてきた構造的問題も改善されていく。その問題とは、一言でいえばこうなる。

 「旅館が宿泊客を囲い込めば囲い込むほど、周辺の観光地が衰退していく」

●「夜」が静かな日本の観光地

 世界中から観光客が集...
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